2026.03.28きりん通信第52号  『おかげさま』という感謝の心

『つなぐ』をテーマにした前号では、感謝の心を未来につないでいきたいと書きました。純粋で深い感謝を表す日本語に『おかげさま』という言葉があります。この言葉は、畏まった場面やビジネスシーンから日常会話まで、挨拶などの社交辞令で幅広く使用されています。私は若い時分に誤用していました。その当時の私は、対面中の相手に対する感謝の気持ちを伝える目的で使用していました。ある時、人から本来の意味を教わり、目に見えない力のおかげで物事が順調であることへの使用の気持ちを、敬意を込めて表す謙虚な言葉であることを知りました。言葉の由来では、目に見えない力とは神仏のご加護のことです。つまり、表に出ず人目につかない『陰の力』を指しています。そのため『お陰様』『お蔭様』と表記することもあります。語源によると、神仏(御陰)から来ており、木陰で雨露をしのぐように、見えない力に守られていることへの感謝の気持ちが込められているとのことです。順調な成果は自分一人の力ではなく、様々なご縁による周囲の支援があってこそ、という日本人特有の謙虚さが『おかげさま』に表れています。

敬愛する相田みつをさんの作品に『おかげさん』という1987年に発表された書があります。みつをさんは禅仏教への造詣が深く、1984年に発表した代表作『にんげんだもの』は多くの人の心に癒しをもたらしています。著書「一生感動 一生青春」(文化出版局刊)にある作品『おかげさん』の解説にとても感銘を受けました。著書より引用文を斜体文字にてご紹介します。

どんなことでも、自分一人だけでできるものは一つもありません。働く、という一つの行為を例にとってもね、働くのは自分の意志だけれど、働く仕事や場所がなければ働くことはできませんね。だから働くということは、同時に働かせていただくことです。つまり、すべての物事は、いろいろなものと関係し合ってできる。「持ちつ持たれつ」なんです。それを縁起というんです。縁起はお釈迦さまの根本的な思想です。わたし達は、あらためて意識するしないにかかわらず、多くの人や様々な物の<おかげ>でいまのいのちを生きているんです。いや、生かされているんです。生きるということは、同時に生かされていることです。生かされているから「おかげさま」なんです。「おかげさま」ということばは、「ありがたい」「感謝」という心から自然に出てくるもので、不満や不足からは出てきません。

 人や物とのつながりは自分では気付くことができない「ご縁」のおかげであり、不平不満を抱く心はそのご縁に気付いていないことで生じます。苦境に陥った際には、忘れがちなご縁について思索して、見えない力の意図を汲み取ろうとする生き方ができればと思います。

2026.03.27休診情報臨時休診のお知らせ

下記の期間は臨時的に休診となります

4月2・7・16・21日

5月  5/2〜5/6(GW休診)・14・19・28日


なお、休診期間中の問い合わせにつきましては、原則として返信できないことをご了承下さい。
休診明けに再度、メールでご連絡いただきますようお願いいたします。

2026.03.11きりん通信第51号  未来につないでいきたい宝物

1月は日本各地で駅伝大会が開催されます。とある休日にテレビをつけると駅伝の生中継が映し出されました。すると近くにいた私の娘が飛びついて見始めました。地域の子ども駅伝大会に出場したことがある娘に駅伝の魅力について尋ねると、「襷を順につなぐこと」とのことでした。人と人がつながる関係を大切に思える気持ちは素敵なことだと感じます。本号では『つなぐ』をテーマに、人は何をつないでいきたいか、何を大切にしてどんな価値観があるかを探ってみます。

阪神淡路大震災から31年が経った2026117日、神戸で恒例の慰霊行事『1.17のつどい』が開催されました。その会場では灯籠を並べて毎年異なる文字を作っています。今年の文字は『つむぐ』でした。震災の記憶と教訓を次世代へ紡いでいくという思いが込められていました。震災で残された人々の深い想いをつないでいく覚悟を感じました。

 私の好きな小説の一つに、辻村深月さんの『ツナグ』があります。物語では既に他界した人に一度だけ再開できるという設定で、主人公は依頼者のために無償で死者との面会の機会を用意します。依頼者の願いは、生き方に悩んで支えて欲しい、疎遠になった親友に謝りたい、突然姿を消した恋人に真実を聞きたい、など様々です。それぞれが抱えている人生の葛藤と向き合う上で、迷いと後悔に直面しながら前を向いていく様が丁寧に描かれています。死者からの最期に伝えたい想いを残された人に「つなぐ」ことで、人はどう生きるのかを問いかけられています。

AIエージェントで世界をリードする米国のマッキンゼーという会社があります。その会社は人間がAIに勝てるスキルを分析しました。そのスキルは『志を抱く能力』『判断力』『真の創造性』の3点です。いずれも自力だけで培うのは多くの人にとって困難といえます。努力した上で、転んでも立ち上がるために必要な多様な支援があってこそ、柔軟で豊かな精神・人間性が養われます。支援者になりうる存在には、身近な親しい人から、縁もゆかりもない通りすがりの人、敵対するライバル、時を超えた過去の偉人など、あらゆる人が対象となり得ます。そのような支援者とのご縁に導かれたことに、「おかげさま」という感謝の心を育んでいけたらと思います。

日本には世界中の国々が切望する4つの宝が唯一そろっていると言われています。その4つの宝とは『豊かさ』『平和』『自由』『平等』です。未来につないでいきたい宝として、『感謝』を付け加えたいです。

2026.02.24きりん通信第50号  自分磨きで得られる理解者

 2025年の年末恒例の音楽番組でひときわ目を引いた女性グループがいました。それはダンス・ボーカルグループの『HANA』です。日本レコード大賞では新人最優秀賞を受賞し、大晦日にはプロデューサーである『ちゃんみな』さんと共演して緩急ある力強いパフォーマンスで観る人を魅了しました。7人グループのHANAの魅力について、ネット検索して得られたコメンテーターの分析報告をご紹介します。2024年から始まったオーディションで、1年かけてグループが誕生しました。当初は情熱を否定されて自信喪失していたメンバーが、オーディションを通して自身の魅力を追求して徐々に成長していく姿に、多くの人が共感しました。HANAの魅力は「共感の力」と語られています。楽曲に込められたメッセージとして「自分らしく生きる」「ありのままの姿を肯定する」「自分を愛する」3点が紹介されています。自分を信じてブレることなく愚直に自分自身と向き合うHANAの姿に、世代によっては現在の自分に重ねる人、過去の自分に重ねる人がいて、幅広い層に受け入れられていることと思います。

 メンバー7人はそれぞれに魅力あふれる個性が輝いており、記事には『力強い歌唱力』『切れ味鋭いダンス』『透明感ある歌声』『凛としたステージング』『アグレッシブなラップ』『しなやかな表現力』『天真爛漫さ』と紹介されていました。 どの個性も自分にしか出せない色に気付いて、その色を一途にひたすら磨き続けることで得られた輝きです。おそらく当初は個性の不協和音があったのかもしれませんが、衝突と葛藤を乗り越えることでお互いに敬意と尊重しあう仲に昇華したことで、この7人ならではのオリジナルのハーモニーが誕生したのではないでしょうか。切磋琢磨によってお互いを引き立て合う存在でありながら適切な自己主張が可能となり、素晴らしいパフォーマンスを見せてくれているのだと思います。

 自分を磨き上げるという言葉から、オリンピック選手へのインタビューでライバルは誰かと聞かれ、「ライバルは自分自身です」と答える一流のメダリストの言葉を思い出します。どのような道にいても、真剣に生きている人の境地は“自分との闘い”に行き着くものかもしれません。その境地を知ったもの同士の間では、最高の好敵手は最高の良き理解者となります。かつて「ともだち100人できるかな〜」と幼稚園で合唱していました。成長とともに友達と親友の区別ができ、徐々に交友関係が複雑化していき思春期を過ぎる頃には仲間と親友の区別となり、親友と呼べる対象はかなり絞られてきます。この世で自分にとっての真の理解者に出逢えた人はとても幸せな人だと思います。

2026.02.11きりん通信第49号  生き抜くために必要な自己理解力

 皆さんは自分の長所短所を咄嗟に表現できるでしょうか。我が事でありながらスマートに言える人は少ないのではないでしょうか。日本人は謙遜する文化なので、自己紹介に慣れている人でも敢えて卑下した表現をしたり、 自虐ネタで笑いを取ろうとしたりすることがあります。中には短所を意識することでトラウマを思い出して心が痛むため、取り繕うように話題を避ける人がいます。一方で長所を自覚できない人もいます。たとえ魅力あふれる人でも自分には価値がないものと思い込んで、周囲に長所を指摘されても認めようとしない人がいます。

人は自分自身について自分が一番よく知っているとつい考えがちですが、裸の王様状態になっていることが案外あります。自分目線での自己と、他者目線での自分とでは、主観と客観の違いが生じることがあります。現状を俯瞰して客観的に把握するには、ゆとりと冷静さが必要となります。物事に対する自分の反応には、意識的な反応と無意識的な反応があります。客観的な自分や、無意識的に反応する自分を認識することは大変難しいことです。だからと言って自己認知を苦手なままで避けていると、状況変化に適応できない場面に直面した際に、生きづらさに悩まされることになります。自分自身を深く理解して自分らしさを認識できると、これまで直視を避けていた自分の弱さを受容しやすくなり、柔軟な適応性を習得することが可能になります。

困難な状況に陥っても時間をかけてしなやかに立ち直る力のことを、『心のレジリエンス』といいます。それを高めるために必要な要素として、 ①感情の自己認知と自己受容(マインドフルネス)・②柔軟思考・③自分への思いやり(セルフコンパッション)・④他者とのつながり・⑤経験から学ぶ力などが知られています。これらを高める手段の一つに認知行動療法があります。その方法には多数の種類がありますが、一人で取り組める方法に、実戦主体のマインドフルネスや、言語化主体の自己記入式ワークがあります。当院では言語化のワークをサポートする目的で、『自己理解・自己認知ワークブック』を作成して、書籍として発刊しました。このワークブックを通して生き抜く力が向上できるが増えることを願ってやみません。

2026.01.27お知らせきりん図書室 更新のお知らせ

久しぶりにきりん図書室の内容を更新しました。
推薦図書を《小説》《心理・育児》《学習》《発達・才能・脳》の項目に追加しました。
院長制作本を2点、《院長の執筆》項目に追加しました。

院長制作本をご紹介します。

1 きりん通信 第一集(2021~2025年)
  月1回程度発行している院長執筆のエッセイを5年分まとめて文集にしました。

2 自己理解・自己認知ワークブック
  認知行動療法に基づいて、自分自身を深く掘り下げる作業をサポートするためにワークブックを作成しました。
  毎日取り組むと、1冊で1か月分を記入できます。


2026.01.21きりん通信第48号  『青春18医療』としての思春期心身症

 思春期医療はしばしば小児科と成人科の狭間になりやすく、心身医学の分野でも同様のことが言えます。少子化が進む一方で、慢性頭痛・起立性調節障害・神経発達症の二次障害・不登校等の適応障害といった心理社会的対応が必要とされる小児は増加の一途を辿っています。移行期医療が未整備のためにそれらの小児が中学卒業後の受診継続に困るだけでなく、高校進学後に新規受診を希望する際に受け入れ可能な医療機関が少ない現状にあります。

小児の後期にあたる思春期に特有な心理的な特性とも言うべき「思春期心性」について、臨床心理士の岩宮恵子氏は次のように述べています。「周囲の変化と自分自身の変化に心がついていくことができず、不安定で誤作動を多々起こし、他者からの働きかけについても敏感に反応してしまうし、非常に傷つきやすい。そして何かにエネルギーを注ぎたいと思ってはいるが、それを自分自身に向けて上手く使うことができない。それがまた自分の中で沈殿して苦しみを深めていくことになる。思春期心性のこのようなしんどい側面は、臨床の場面で出会うすべての年齢層のひとたちの状況と重なる部分が大きい。」

思春期に迎える心理的な壁は、脳神経系・内分泌系の顕著な変化による体内環境の混乱に加えて、未経験なことへの初挑戦における浅い人生経験による適応困難さによってもたらされます。近年のIT革命によって電子機器が身近な生活必需品となったことで、全世代にとって外部環境が激変し、利便性と同時に新種の不適応が生じることとなりました。AIの台頭により今や相談相手は生身の人間ではなくAI搭載アプリにとって代わられ、中年層は人生相談を、若者は恋愛相談や友人関係の相談を画面の向こうにある感情を持たないコンピューターに行う時代に突入しました。精神科医の益田裕介氏は、精神的ダメージとしてAI誘発性心理反応が今後急増すると警鐘を鳴らし、抑うつや誇大妄想、被害妄想を抱くリスクがあるとされています。次々に生じる新しい環境がもたらす価値観や対人距離感の変化によって、全世代が経験不足ゆえの適応困難に陥りやすい状況にあります。

 現代社会においては、思春期心性は青年期を超えて加速度的に全年齢層に広がってきています。この現状を逆手に取ると、思春期心性の理解の上に心身医療を展開することで、青年期以降も途切れることなく心理社会的支援を継続しやすくなると言えます。思春期心性による心身相関上の医療的課題への対応に、心身一如としてテーラーメイド治療を得意とする漢方診療は相性が良いと言えます。鉄道会社JRが発売する乗車券「青春18きっぷ」は国内全線のフリーきっぷであり、主に学生を対象としながら年齢制限はありません。それになぞらえると、思春期心身症の漢方治療は年齢制限のない「青春18医療」と言えそうです。

2026.01.05お知らせ2026年 新年のご挨拶

明けましておめでとうございます。

2026年の皆様の抱負はいかがでしょうか?

世界では、東欧の紛争は未だ続いており、東アジアの情勢に緊迫感を帯びてきました。
国内では、政治経済の不安定さが遷延して被災地の復興が進まないまま1年以上続いていました。終盤になり
行政に大きな変化があり、国民生活が上向きの兆しが見えてきました。
スポーツでは、2026年上半期に冬季オリンピック、ワールド・ベースボール・クラシック、サッカーW杯と日本人の活躍が期待される国際大会が続きます。

2025年紅白歌合戦のテーマは「つなぐ、つながる、大みそか。」でした。
番組のエンディングでは、坂本九さんの代表歌である「上を向いて歩こう」が出演者で歌われました。
2026年も明るい未来を信じて、諦めることなく前に進みたいと思います。

2025年までを振り返って、開院以来ホームページ連載のきりん通信を、文集『きりん通信 第一集』として上梓させていただくことになりました。
院内またはAmazonサイトで販売しております。
ホームページ上では公開終了した号が掲載されておりますので、この機会にお読みいただけますと大慶至極に存じます。

2025.12.28きりん通信第47号  共鳴し合う波紋による癒し

 本通信の第38号で映画『小学校』について触れました。その作品に込められた映画監督の思いは「人格や品性などアイデンティティの基礎は小学生時代に固まる」というものでした。本号では、前思春期の重要な時期に小学校という場で周囲に成長という波紋をもたらす、障害を抱えた生徒が主人公の映画『ワンダー 君は太陽』を紹介します。

 原作は2012年発刊の小説『Wonder』で2017年に映画化されました。主人公は小学5年生になる10歳の男の子、オギーです。先天的な障害を背負って誕生して、生まれてから27回も手術を受け、顔に目立つ手術の跡があり、特徴的な風貌をしています。親は我が子の成長を願って、悩んだ末に思い切って5年生から学校に通わせることにしました。入学早々に待ち受けていた現実は、外見差別によるいじめでした。それはある程度は想定内のことであり、親は前もって「辛い時は楽しい空想するといい」と言い聞かせていました。オギーは周囲から注がれる奇異な視線には慣れていることとしつつも、空想力を発揮して逞しく耐え忍びます。やがて初めての友達ができますが喜びも束の間、その友達に自分の陰口を言われている現場に出くわします。信じていた友達に裏切られて周囲に心を閉ざしました。そんな中、正義感のある生徒が周囲の偏見やいじめを意に介さずオギーの味方になります。オギーの魅力である逞しさ、優しさ、知性がクラスで受け入れられ、学校生活は徐々に楽しく充実していきました。学校がいじめ問題を厳粛に対応したこともあり、いつの間にかオギーは同級生の一員として、外見を気にすることなく堂々と過ごせるようになっていました。またオギーの家族や彼を知る人達が、彼との触れ合いを通して自身の葛藤と向き合い変化する様を、それぞれの視点で描かれていました。

学校という教育環境での子ども同士の交流や、学校以外の日常の場でのふれあいを通して、お互いに響き合うことで見えない波紋が広がるかのように、お互いに心理的成長がもたらされます。たとえ心理的安全性が満たされていなくても、たとえ葛藤の渦中にあっても、夢中になって生きようとする純粋なエネルギーに触れることで、双方に癒しがもたらされます。

偏見やいじめは大変罪深く哀しいことですが、人間の性でもあることから生きている限りは遭遇しうることでもあります。私達はこの世に生を受けて様々な体験をする中で、知らず知らずのうちに様々な価値観を抱くようになります。偏見やいじめには悪意によるものだけでなく、無知で無邪気なもの、偏った正義によるものもあります。何事にも個別の事情や背景があり、一律に罰せられるものではないかもしれません。

 喜びも悲しみも影響が大きい程、心の波紋が大きく広がることで価値観や人格の形成に繋がります。運命的な出逢いにこそ何かしら学ぶべき意味が隠れており、葛藤を克服することで得られる癒しは、運命に対する感謝の念と生に対する謙虚さが湧き起こることでもたらされます。

2025.12.01きりん通信第46号  葉祥明の青の世界  世界をつつむやさしい光

心に静寂さを取り戻したい時のお気に入り散策スポットの一つに、北鎌倉があります。緑豊かな山あいに囲まれた古都の街で、JR北鎌倉駅から徒歩圏内には坐禅体験ができる鎌倉時代に建立された円覚寺・建長寺があります。その近くに詩人で絵本作家でもある葉祥明さんの美術館があります。葉祥明さんの画風はメルヘン画で、画面いっぱいに空と大地と地平線が描かれているのが特徴です。作品を鑑賞していると広大無辺の空間に心が包まれるかのような心境になります。

 葉祥明さんの画業50周年記念出版の作品に、『DARK BLUE』という深い青色をテーマにした詩画集があります。葉さんの言葉は、鋭い眼差しでありながらも温かい優しさと希望に溢れています。この詩画集から、心に残る言葉を以下にご紹介いたします。なお掲載にあたり、紙面の都合で詩を散文形式に改編したことをお詫びいたします。        文: 院長

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       葉祥明美術館                   美術館のHPより引用                DARK BLUE


《以下引用文》

・人は、大いなるもの、こよなく美しいもの、想像を絶するものを前にしたとき、永遠を垣間見る。この宇宙には計り知れない理の秩序と調和がある。私達の住むこの世界にも、混乱と悲惨の奥に美と善と命の輝きが満ちている。あなたの中にも。

・人生を真に生きるには、孤独に耐えねばならない。誰かを勇気づけ、慰め、誰かの助けになることができたら、あなたの存在には大きな意味がある。純粋な愛というものを。今こうして生きて存在しているということで。この宇宙の、世界の生きとし生けるもの、多くの人々の愛によって人は支えられて生きている。

・あなたは、あなたができることしかできない。心優しく思いやり深い人としてこの日々と人生を生きること。光のように 風のように 大気のように。

・ひとときの感情によって真の答えを見失わないこと。人生は失うためにあるのかと思う日もある。それでもなお生き続け、人生にイエスと言える強さを人は持たねばならない。

・幸せは変わりないこの日々。それが失われた時、人は初めてそのことに気づく。「今」というかけがえのない宝物。今、この瞬間に意識を集中する。それが真に生きるということ。大切なのは、今目の前にあるやるべきことに全力を尽くすこと。

・私たちはこの世という世界を旅している。そして、光へ。

2025.12.01お知らせ【注意喚起】当院を装った不審なメールにご注意ください

最近、当院のメールアドレスに似たドメイン名を使用した不審な「なりすましメール」の存在が報告されています。
当院からメールやショートメッセージ(SMS)で個人情報などの入力を求めることは一切ございません。
不審なメールを受信した場合は、記載されているURLを開いたり、添付ファイルをダウンロードしたりせず、メールごと削除していただきますようお願いいたします。
これらの操作を行うと、ウイルス感染や個人情報の不正取得などの被害につながるおそれがあります。皆さまの安全を守るため、十分にご注意くださいますようお願い申し上げます。

2025.11.01きりん通信第45号  深淵なる青色の世界

青色は人生でとても馴染み深い色といえます。前号で青の色彩心理をご紹介しました。清々しさや知性、誠実さといったイメージを持つ一方で、孤独や憂鬱といった感情とも密接に結びついています。本号では青色の魅力について、「うつ」と「ブルー」という精神的側面、そしてピカソの「青の時代」に焦点を当てて考察してみます。

一般に青色は、海や空などの広がりを連想させ、安心感やリラックス効果をもたらす色とされています。ビジネスの場では信頼や誠実さの象徴として使われ、ユニフォームや企業ロゴにも多用されます。さらに、夏の暑さを和らげるために、冷たさを感じさせるインテリアや洋服にも青色が多用されます。一方で、青色は「冷たさ」「孤独」「寂しさ」「憂鬱」といった負のイメージとも結びつきやすく、心の落ち込みを象徴する色とされています。英語の“feel blue”は「憂鬱な気分」を表現する慣用句に使用されます。

「ブルーな気分」という表現の語源は“have the blues”に由来します。この表現は、深い悲しみや心の痛みを歌ったブルース音楽の世界観に通じるものがあり、人は「ブルー」な精神状態に陥ると無力感、虚しさ、孤独といった感情と対峙します。青色はそのような抑うつ気分を視覚的に象徴する色でもあります。色彩心理学の分野では、青色が落ち着きや安心感をもたらす一方で、感情が沈みやすい傾向があることが示唆されています。特に長期的な抑うつ状態の人は、鮮やかな色よりも青や灰色、黒などの沈んだ色を好む傾向があると言われています。ただし青色そのものが抑うつを引き起こすわけではなく、心が沈む状態では自然と青色のような静かな色に惹かれるという側面があります。逆に、意識的に暖色系の色や光を取り入れることで、気分の回復を促すことが可能です。

スペインの巨匠パブロ・ピカソは、世界で最も作品が多い画家であり、キュビスムの創始者の一人として大変高名です。ピカソの代名詞ともいうキュビスムを描く前の時期、20歳代前半に「青の時代」と呼ばれる作品群があります。この作品群では主に青色や青緑色を基調とした寒色系が使用され、孤独や悲しみ、貧困、死といったテーマが内省的に描かれています。ピカソが青色を多用した背景には、最愛の友人の自死という深い喪失体験が影響しているとされています。青色を画面の隅々にまで使用することで、圧倒されるほどの悲しみや絶望を表現しています。

 ピカソの「青の時代」は青色というフィルターを通して、人間存在に内在する悲しみや苦しみだけでなく、時には希望の光をも表現していると言われています。青色が内包する静謐さや透明感は、自己の内面と向き合うきっかけを与えてくれるかのようです。青の色彩によって癒しと心の回復がもたらされることで、より豊かで深い生き方を味わうことができるようになるのかもしれません。

2025.10.01きりん通信第44号  青の色彩心理

 前号まで青色について数回に分けて連載してきました。今回は青色そのものについて深掘りしてみます。一般的に言われている青色の特徴をまとめると次のような点が挙げられます。青色の長所は、①落ち着きや安心感を与え、心理的な安定をもたらす、②信頼性や誠実さを象徴、③集中力を向上させる、④涼しさや清潔感を演出、などです。このことから作業環境、公共空間に好まれることが多いようです。一方、青色の短所は、❶冷たさや距離感を与え、感情的な温かみに欠ける印象がある、❷孤独感や悲しみを連想、❸食欲を抑制、といったことが言われています。

 色彩と人間心理の関連について研究している末永蒼生氏の著書『色彩心理の世界』には、色と心の不思議な関係をはじめ、主だった色の色彩心理や、色の癒し効果、カラーセラピーについて紹介されています。末永氏が行った色彩心理の調査の結果では、青を好むときの心境は「絶望」「別れ」「孤独」などネガティブな言葉が挙げられる一方、「自己探究」「浄化」「癒し」「内的成長」「開放感」「新しい私」「自立」「希望」「知的」などポジティブな言葉を挙げる人が多かったそうです。青色は「喪失感」と「再生」の双方の感情を反映するものとして見ることができます。

 青の色彩心理が具体的に表現されている作品として、ドイツの文学小説で真実の愛を求める『青い花』、フランス人監督が大いなる青を描いた映画『グラン・ブルー』、ピカソが若年期に描いた『青の時代の作品群』を末永氏は挙げています。

『グラン・ブルー』の物語は、生と死の間をつなぐ水の領域、青の世界に限りなく惹かれていく極めて内省的な青年の生き方が描かれています。主人公はフリーダイビング(素潜り)の達人で世界新記録を出したフランス人のジャック・マイヨールがモデルになっています。映画のタイトルは、ジャックが体験した海の神秘からつけられました。「ある深さまで潜ると、宇宙の静寂の中で聞こえるような不思議な音を感じる。音というより波動といったらいいようなものに包まれて、自分と外界との境界線が溶けてしまうような、生と死が一つになったような感覚になる。その深海の領域をグラン・ブルーと呼ぶんだ」。

末永氏が語る青の心理とは、「喪失と再生の心」と表現しています。青の色彩によって喪失感が癒され、そこからさらに回復が促される効果があると言えます。

2025.09.01きりん通信第43号  青色が紡ぐ心の安らぎ

青という色は文化や民族が異なっても私たちを魅了し、安心や幸福をもたらしてきました。青い鳥や青い蝶に出会うと、幸運が訪れるという言い伝えや、ヨーロッパでは結婚式で「サムシング・ブルー」を身につけると幸せになれるという風習があります。日本では古来より青は高貴な色とされてきました。中国の故事には弟子は師匠より優れているという意味の「青は藍より出でて藍より青し」という諺があり、青は成長や向上の象徴でもあります。ギリシャのエーゲ海沿いの町々では、幸せを呼ぶ色として家々の扉や窓枠が鮮やかな青で塗られています。中東の国々では、青いタイルや装飾が「邪悪なものを遠ざけ、幸運を招く」とされてきました。

明るい青は澄み切った青空や大海原を思わせ、深い青は底の見えない心の深淵を思わせます。青はそんな無限の広がりを持つ色であり、日常の喧騒から離れ、心を癒してくれる存在です。青色を見つめるとき、人は不思議と心が落ち着き、柔らかな幸福感に包まれます。

湘南平から望む相模湾

瞑想やヨガの世界でも、深呼吸をしながら青空をイメージすることで、心の静けさと幸せを呼び込むことができるといわれています。このように青色には高揚した気持ちを鎮める効果があります。一方で気持ちが沈んでいる時に見ると、さらに沈み込みを深めてしまうリスクがあります。心理学的には、青は「冷静」「誠実」「信頼」といった印象を他者に与える色とされています。青には自律神経を安定させ、心拍数や血圧を下げる効果があると報告されています。晴れた日に果てしなく続く空や海を眺めながら、ただゆったりと深呼吸すると心が満たされて、目の前の悩みや不安が小さく思えてくるのではないでしょうか。

このように青を見つめることにより、奥深い心の探究から自己発見・自己理解を得られると、等身大のありのままの自分に出会うことができます。内なる自己との出会いは、過去の苦痛の癒しをもたらします。心が苦痛という束縛から解放されると、無理な背伸びをする必要がなくなり、自己実現という希望の光に向かって歩み始めることになります。この希望の光は青がもたらす光、つまり瑠璃色の光といえます。健康長寿を人々に授ける薬師如来の正式名は『薬師瑠璃光如来』といいます。時に自己探究は孤独を感じますが、自分自身との対峙は薬師如来の瑠璃光に包まれることになります。本当の孤独とは、自己嫌悪や自省することなく他者批判ばかりしている境遇であり、瑠璃光が届いていない心の飢餓状態と言えます。

幸せの青い鳥は、何処か遠くではなく、自分のすぐそばにいます。同様に瑠璃光もまたすぐそばで照らされています。そのことに気づくことができると、使命の発見に近づけるのではないでしょうか。

2025.08.01きりん通信第42号 幸せの青い鳥 マウンテンブルーバード

出典「トリモノ帖https://hiyoko.tv/torimono/zatsu/eid1049.html

 前号では青い鳥をめぐる物語についてご紹介いたしました。実在する青い鳥が北アメリカ西部の山岳地帯に生息しています。マウンテンブルーバード(和名ムジルリツグミ)という鮮やかな青色の羽をもつ鳥です。その美しさと希少性から、現地では幸せや希望の象徴とされています。古くからこの鳥に出会うと幸運とされ、多くの文化や伝説で語り継がれてきました。アメリカ先住民の間では、マウンテンブルーバードが幸せや良い知らせを運んでくる鳥として尊ばれてきました。しかし、生息地の減少や気候変動の影響で数が減少しています。

 和名にある「ルリ」は宝石の「瑠璃」に由来し、西洋ではラピスラズリの名で知られています。瑠璃は仏教における七つの宝物の一つで古くから神聖視されてきました。瑠璃色の光である瑠璃光は、病気を治して健康を授ける薬師如来を象徴しています。薬師如来は正式名「薬師瑠璃光如来」と言い、私たちに幸福をもたらしてくれる現世利益の仏として古くから日本で信仰され、奈良にある薬師寺のご本尊が有名です。

瑠璃色は透明感と深みのある紫がかった濃い青色が特徴で、深海や夜空を思わせる幻想的な雰囲気を持つ色とされています。日本の伝統色として、染色やガラス器の色名として用いられてきました。平安時代には高貴な色とされ、身分の高い人が身につけることを許された色でした。瑠璃色の生き物は鳥の他に熱帯魚と蝶々がいます。コバルトブルーの熱帯魚としてルリスズメダイが水族館でも人気があります。青い蝶はその美しさから標本がインテリアとして人気があります。オーストラリアに生息するユリシス(和名オオルリアゲハ)、アメリカ大陸に生息するモルフォ蝶が有名です。

         

ルリスズメダイ         オオルリアゲハ         ヘレナモルフォ

出典「沖縄美ら海水族館」      出典「Wikipedia」        出典「Wikipedia


「瑠璃色の地球」という松田聖子さんの歌が1986年に発表されました。この曲の歌詞は冒頭で『夜明けの来ない夜は無いさ』という励ましの言葉で始まり、『争って傷つけあったり人は弱いものね。だけど愛する力もきっとあるはず』と綴っています。作詞した松本隆さんは「環境破壊に警鐘を鳴らし、地球を守るメッセージソング」と語っています。

 生存本能で種をつなぐ動物と違って、人は幸せを追求する存在ですが、その方法によっては創造と破壊という正反対のポテンシャルを有しています。青い鳥を探す旅とは、瑠璃色の心を探究する生き方なのかもしれません。

2025.07.01きりん通信第41号 青い鳥をめぐる物語

「青い鳥」は幸福と希望の象徴として、さまざまな文学作品や物語に登場します。代表的な作品としてメーテルリンクの『青い鳥』が知られています。また重松清の小説に『青い鳥』という短編集があり、映画化もされました。そして日本アニメの巨匠、松本零士の『銀河鉄道999』の主題歌の歌詞に「青い小鳥」が登場します。これらの作品は、それぞれ独自の視点から人の幸福について探求しています。

実在する青い鳥として、北米の山岳地帯に生息するマウンテンブルーバードが知られています。その美しさと希少性から幸せや希望の象徴とされ、アメリカ先住民の間では幸せや良い知らせを運んでくる鳥として尊ばれてきました。

ベルギーの劇作家モーリス・メーテルリンクが1908年に発表した『青い鳥』は、貧しい家庭のチルチルとミチルという兄妹が「幸せの青い鳥」を探して不思議な世界を旅する物語です。彼らはさまざまな世界を冒険し、多くの試練を乗り越えます。しかし旅の中ではついに青い鳥を見つけることはできませんでした。家に戻った二人が飼っていた小鳥を目にしたとき、探していた青い鳥は元々我が家にいたことに気付きました。この物語は、幸福というのは実は身近にあり、その存在に気付くことができるかどうかは自分次第である、というメッセージを伝えています。

重松清の作品では、日常の中で幸福を見つけることの難しさと、その重要性が描かれています。小説『青い鳥』では、中学校を舞台に吃音で上手く話せない教師が、不器用ながらも悩める生徒の心に届くよう懸命に語りかけます。生徒達は対話を通して、現実の厳しさに直面して葛藤しながらも、小さな喜びや希望を見出していきます。重松作品は目に見えない幸せを探し求める生き方の重要性を伝えています。

松本零士氏の『銀河鉄道999』は、宇宙を舞台にした壮大な冒険物語であり、富の象徴として永遠の命である機械の体を手に入れることが幸せである、という価値観が支配する世界を表現しています。貧しい母子家庭に生まれた主人公の少年が機械の体を求めて旅する物語です。旅の中で地球とは異なる様々な価値観の世界に生きる人と出会い、人生の悲喜交々に触れて、主人公は本当の幸せとは何かを自問自答します。彼は旅を通して、外見や物質的なものには価値はなく、真の幸福は自分自身の心の中にあると気付かされます。

 これらの作品に交錯するテーマとして、幸福や希望は自身の心の中にある、という共通したメッセージがあります。童話、現実的な物語、SF的な冒険物語といった異なる表現を通して、「青い鳥」のテーマを探求することで深い感動と洞察をもたらしています。青い鳥をめぐる物語は、人類にとっての永遠のテーマであり、機械の体ならぬ人工知能到来の現代にこそ真剣に向き合うべき必要なテーマでもあり、生き抜くための心の羅針盤になるといえるでしょう。

2025.06.01きりん通信第40号 トイレ掃除のススメ

2010年に植村花菜さん作詞の『トイレの神様』という歌が大ヒットしました。この歌は本人の実話を元に小説・絵本・ドラマ化されて社会現象となり、日本レコード大賞で優秀作品賞と作詞賞を受賞しました。歌では小学生の頃に「トイレにはきれいな女神様がいるから、毎日きれいに掃除するとべっぴんさんになれる」というおばあちゃんから教えられたエピソードから話が展開されています。

鎌田洋著『ディズニーそうじの神様が教えてくれたこと』では、著者がディズニーに就職した当初の配属先である、夜の清掃部隊(ナイトカストーディアル)の研修で出会った「そうじの神様」の教えを紹介しています。ウォルト・ディズニーに信頼されてディズニーの世界でそうじの神様と称えられたチャック・ボヤージン氏は、笑顔でトイレ掃除を嬉々として行い、まるで我が子を抱き抱えるかのように便器を勢いよく磨いていたそうです。作中に「彼の清掃はトイレの汚れだけではなく、私たちが持っていた清掃という仕事に対する劣等感や抵抗感のようなものまで洗い流してくれたのです」と語られています。

仏教ではいにしえより修行の一つとして厠(屋外の便所)の掃除が重視され、自我を捨てる修行とされてきました。便所を護る仏として、平安時代の頃から不浄を除く力のある烏枢沙摩明王が寺の便所に祀られてきました。この明王は全ての不浄を焼き払い浄化させる火の神であり、人間界の煩悩が仏の世界へ波及しないよう聖なる炎によって不浄(煩悩・欲望)を焼き尽くし、慈悲の心を怒りの力に変えて衆生を救います。現代でも厄除けや金運向上を願って、トイレに烏枢沙摩明王のお札をお祀りする習慣が残っており、お札をネット通販で手に入れることができます。

故人となられた心理学博士の小林正観氏はトイレ掃除を強く推奨しており、著書には次のように記しています。「邪心・下心・損得勘定100%でもかまわないから、とにかくトイレ掃除をやってみましょう。(多くの人は)我を張って自我で生きている。自我というゴミがエネルギーの流れを堰き止めているため、掃除で取り除くと、望むか望まないかに関わらず勝手に流れてくる。」と。そして多数の実例からトイレ掃除の効果として「自分のことが好きになる。不平不満・愚痴・泣き言・悪口・文句を言わなくなる。自分が喜ばれる存在でありたいと思いながら生きるようになり、うつがよくなる。」と伝えています。

 自己と対峙する内向的な東洋と、他者への奉仕という外向的な西洋では文化様式が異なりますが、トイレ掃除という行為からは共通して、感謝の念が湧き起こり、心が満たされた幸福感を得られるようです。回避したくなることに向き合い続けると、受け入れ困難な自己との和解と他者理解が深まっていきますので、葛藤を克服することができると心に安穏がもたらされることでしょう。

2025.04.28きりん通信第39号 魔法の国「オズ」を舞台にした2つの物語

 20253月に映画『ウィキッド』が本邦公開されました。原作は1995年に出版された小説で、2003年以降はブロードウェイミュージカルとして大ヒットしています。主人公は『オズの魔法使い』に登場する悪役の西の魔女で、不幸な生い立ちによる葛藤を抱えながら、正義を貫く生き方のゆえに差別と偏見に立ち向かい、権力者と敵対する運命を描いています。善とは何か、悪とは何か、観る人に倫理観を問う大人向けの作品となっています。

 一方、『オズの魔法使い』は1900年に著された児童文学作品です。主人公は現実の厳しさから夢を追いかけようとする少女ドロシーで、出会った仲間と共に冒険を通して成長する物語です。偉大な魔法使いオズに助けてもらおうと旅しますが、人に頼らずとも求めていたものは自分の中にあった、という『青い鳥』に似て幸福感や自己発見がテーマになっています。

 オズの魔法使いは1939年に映画化され、テーマソング「Over the Rainbow」を一度は耳にしたことがある人が多いかと思います。歌詞には希望や理想の世界への憧れが込められています。虹の向こうの理想郷を羨望して、現実の厳しさから抜け出すために夢を追い求める希望を持つことで、どんな困難も乗り越えられるというメッセージがあります。ドロシーが出会う仲間は「かかし」「ブリキの木こり」「ライオン」の3人で、それぞれに悩みを抱えていました。かかしは頭に脳が入っていないことで考える知恵を望んでいました。ブリキの木こりは胸に心臓がないことで感情を感じる心を望んでいました。ライオンは恐怖心に打ち勝つ勇気を望んでいました。3人のキャラクターが求めていた「知恵」「心」「勇気」をまとめると、哲学者カントが提唱した「知情意」に通じるものがあります。これは人間の精神活動の根本である「知性」「感情」「意思」を指し、よりよく生きるにはこの知情意のバランスが大切になります。

「知情意」は古くから日本仏教においても重視されており、土井進氏によると、道元は「知の教師」、親鸞は「情の教師」、日蓮は「意の教師」だと言います。大脳生理学者である故時実利彦氏(東京大学医学部名誉教授)は次のように述べています。『人間を特徴づける人間性は、大脳の前頭連合野が司る知・情・意の3つの働きにある』『前頭連合野は思考、創造、意志、情操の座であって、私たち人間の新皮質だけによく発達しており、これらの精神によって、創造行為を営みながら、「よく」生きてゆこうと努力しているのである。そして「よく」生きてゆく創造行為のなかに、私たちは、喜びや悲しみを感じているのである。』

生きづらさを抱えて人生を生き抜くのに必要な三種の神器は、①コミュニケーション能力、②問題解決能力、③レジリエンス能力、と言えます。これら能力を磨くには、感情や意図を理解して対応する適応力と、逆境においても精神的に強く前向きでいられる柔軟な適応力を身につける必要があります。そのためにも「知情意」を育むことが大切と言えます。ドロシーの冒険を通して、運命を受け止めながら希望を持って生きることは、「知情意」を育んで自己成長していけると、この作品は伝えてくれています。『ウィキッド』が提示する善悪の倫理的課題のような対立するイデオロギーに立ち向かうためには、私達一人ひとりがネガティブケイパビリティを養うことが望まれます。その解決の糸口として、人の創造性を向上すべく「知情意」を育むことが大切と考えられます。

2025.04.01きりん通信第38号 映画『小学校』が語る日本人とは

 日本での4月は年度の始まりであり、新生活を迎える人が少なくないことと思います。中でも子ども達にとっては進学・進級があり、特に義務教育が始まる小学新1年生にとっては本人だけでなく家族にとっても大きな変化があり、期待と不安でいっぱいではないでしょうか。

 202412月に映画『小学校〜それは小さな社会〜』が日本で公開されました。監督は英国と日本のハーフである山崎エマさんです。日本教育のありのままの現状を海外に紹介する目的で、外国文化からの視点で撮影されたドキュメンタリー映画です。作中では演出は全くなく、新入学した小学1年生と卒業を迎える小学6年生、彼らの指導に関わる教師の素顔を、1年間通して淡々と描出しています。この映画は教育大国であるフィンランドで大ヒットしたそうです。海外での評判を受けて本邦公開となりました。日本人が自国の文化を直接英語で紹介した作品として、古くは旧五千円札の新渡戸稲造『武士道』や岡倉天心『茶の本』があります。これらの著書は海外から逆輸入されて日本語に翻訳され、伝統的な日本人の精神や文化を見直すきっかけになりました。映画『小学校』はそのことを思い出させてくれます。監督の言葉が次のように映画公式サイトで紹介されています。「6歳児は世界のどこでも同じようだけれど、12歳になる頃には、日本の子どもは“日本人”になっている。すなわちそれは、小学校が鍵になっているのではないか。日本社会の未来を考える上でも、公立小学校を舞台に映画を撮りたいと思った。」 原作のサブタイトルは“The making of a Japanese”(日本人の作り方)です。つまり6年間の義務教育を通して、卒業する頃には日本人としての人格や品性などアイデンティティの基礎が固まると、監督は主観的に発見しました。

 日本人にとって当たり前と思われている文化や習慣などの常識は、海外に住む人にとっては当たり前ではなく時に非常識なことがあります。その逆もあります。大災害に見舞われた際には大きな暴動はなくお店やバス待ちに整然と並ぶ姿や、スポーツのワールドカップの会場では立つ鳥跡を濁さずの精神で試合後にゴミ拾いをする姿は、海外で大きな話題となったのは有名な話です。

 映画『小学校』から読み取れる日本の学校教育の良さと危うさについて、精神科医の荒田智史医師は次の点を指摘しています。賞賛される点として「規律(ルールを守る)」「協調生(周りに合わせる)」「忍耐力(努力する)」。一方、課題として「同調圧力」「ダブルバインド」「モラルハラスメント」「相互監視」「スケープゴート」。作中で厳しい指導方針を自認している教員が、自分の考え方は「諸刃の剣」と発言しています。同じことが全てに通じると言えます。

 しつけ方について、褒めるべきか叱るべきかを対立的によく議論されます。どちらにもそれぞれ長所と短所があり、バランスよく効果的に使い分ける必要があります。大事なことはそのしつけ方に、深い愛情が込められているかどうか。しつけには情熱と冷静さが必要で、しつける側の心理的安全感と自己肯定感が問われます。それには深い自己理解による自己承認が必要となります。そのためには自分にとってのオリジナルの困難さと向き合い、壁を乗り越えることが近道となります。視点を変えると、育児や指導などでしつけ方について真剣に悩むことは、しつけに悩む相手のおかげで自己成長することができ、ひいては自己実現につがなります。

2025.02.21お知らせマイナ保険証の登録方法

健康保険証が今後、マイナ保険証・資格確認証に移行します。
それに伴って、保険情報の登録方法が変更になります。
CLINICSアプリを使用した登録方法をホームページに掲載しました。
下記の順にホームページ内のサイトをお進み下さい。

受診案内 > オンライン診療 > マイナ保険証の登録方法

なお、来院の場合は変更ありません。